2005年5月7日土曜日

十日くらい前から、「国境の南、太陽の西」をスペイン語版で読んでいる。読むのは七年ぶりくらいか。出版直後、図書館に入ってそう日も経たないくらいに読んだのだと思う。

村上春樹を読むたびに、主人公に苛立つ。高校時代に愛読していたときはそんなことはなかったのだが。月日が経つごとに苛立ちが増す。「ノルウェイの森」が顕著で、何度か読んでいる好きな本だが、読むごとにワタナベくんに対する苛立ちは増すばかりだ。

物語の背景はバブルまっしぐらの東京(1980年代後半)。主人公は1951年生まれだから私の親とほぼ同世代だ。関西のどこかの街(京都か大阪近郊か)の平均的なサラリーマンの家庭で育って大学から東京に出る。卒業後サラリーマンをするが建設業者(?)の社長の娘と結婚したことをきっかけにジャズバーを青山に開くことになる。その事業が成功を収めて妻子と共に青山の瀟洒なマンションに住み、箱根に別荘を持ち、高級車を乗り回し、紀伊国屋で買い物をし、高級車で子供を送り迎えするような親ばかりの幼稚園に子供を通わせたりする。株をする義父の手助けで株で儲けたりもする。そんな三十代後半の世間的には成功した男性が、ある日小学校時代に友達とも言い難い親密な関係にあった同級生と自分の店で再会して奇妙な不倫関係に陥る。

バブルでの成功者に、何だかよく分からないうちに自分もなっていて、そんな世界に馴染むことが出来ない人の話か?あくどい商売もしているらしい義父に反発して自分は真面目に働いて金を稼いでいると言いつつ、最終的には夫婦で依存し続けているように見える。

女性に関しては特に「島本さん」がリアリティない。どこで何をしてお金を手に入れているのか分からないがいつも高級品を上品に身につけている。私生活は極秘でほとんど何も分からない。小学生の頃はそうでもなかったが、再会してみると大変な美人になっている。ものすごい微笑をしばしばする。この微笑みについての描写は、中世の詩みたいだ。「君の真珠のような歯」とかそういうやつ。そんな「島本さん」とはバーで出遭ってジャズの話とかをする。幼稚園の親仲間とくだらない話(ミキハウスのバーゲンとか)をするのとは反対に満たされる内容のようだ。「川が見たい」となぜか頼まれて石川県まで一緒に日帰り旅行に行き、あと一歩踏み込んだ関係になりそうだったが今の生活のことを考えて踏みとどまる。「島本さん」とは縁がなくて、住所変更のはがきもなぜか届かなかったし、二十代後半の独身時代に一回街で見かけて追いかけたが交流ないままに終わるし、再会してみれば妻子持ち。でも惹かれ合うべくして惹かれ合うのだが。

ずるいな、と思うのは、「自分のために出来ている女の子」がいてそういうのはすぐ分かる、と言い、奥さんも美人ではないけど「ぼく向けの相手」(日本語はどうなってるのか知らない)だとか言っているのに運命の相手は超美人で誰もが美しいと思うような女性か…ということ。この主人公はそれに限らずずるく、「ずるがしこい」というよりは単にずるく、ちょっとそれに気づいているが気づかないふりをしているという感じか。

とにかく気になったのは

  • バブル
  • セックスの持つ意味(ある特別な相手と、適切な時期に寝ると生まれ変われるのではないか、という幻想)
  • 自分のために出来ている相手

外国で外国語で暮らすことは私に新しい世界をくれたことは確かだと思う。日本語では思考力に合わない語彙を使いまくっているのではないかとは考えたこともなかったが、どうもそうらしい。このことを知れたのは、今のところ私が留学で得た一番のものだ。人間関係をのぞいて。

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