2010年8月17日火曜日

ジュネーブ紀行

夫が用事があったので私もついて行って観光した。

チューリッヒを七時過ぎに出る電車に乗り、ビール乗り換えで10時前にジュネーブ着。ここから個人行動。まずは観光案内所に行って、市街図と路線図をもらう。偶然並んでいた窓口のお兄さんがスペイン語バイリンガル(多分南米系の人)だったのでスペイン語を練習させてもらった。赤十字・赤新月博物館と、CERNのMicrocosmとどっちがおすすめか?と聞いてみたところ、赤十字・赤新月博物館の方がガイドツアーもあるし興味深いが、Microcosmは全体に文字の説明ばかりだ、しかし興味があれば面白いんじゃないか、とのことだった。

あまり面白くない予感はするが、せっかくなので前から予定していたMicrocosmに行くことにした。 MicrocosmはCERN(ヨーロッパ原子核研究機構)の学習・解説のための施設。本当はCERN内部の見学ツアーに参加したかったのだが、一週間前に予約を試みたら九月いっぱいまで満員だった。Microcosmまではまず市電14番か16番に乗り、途中で56番のバスに乗り換えて終点1つ手前のバス停まで。途中移民街のような所を通っていく。乗り換え地点辺りは恐らく公営住宅であろう、同じ形のアパートが並んでいる。特に危険な感じはしないが、チューリッヒよりは少し荒れているような雰囲気がある。

終点で降りてからよくわからず門番に尋ねたら、英語が分かっているようだけどひたすらフランス語で返してきた。受付の建物に行け、ということらしい。入ってみるとレトロな雰囲気。60年代か70年代にできた日本の科学関係の博物館と雰囲気が似ている。意外と人が多く、子供連れで混雑していた。

From Genf
Microcosm内部。意外と混んでいる。


From Genf
ヨーロッパの若者がソ連やアメリカに行かなくとも物理学を研究できるようにすることもCERNの目的の1つだったらしい。教育を外部委託しない心意気がまぶしく見えた…。

From Genf
CERN入り口。一般人は入れないようだ。

展示は確かに案内所の人が言った通り、文字ばっかりだった。英仏独伊の四言語で書かれているのでいずれかがわかれば理解できる、はずだが、日本語でもよく分からない物理の説明を英語で読むのは骨が折れる。途中疲れてきて全部は読めなかった。前半は素粒子とは何か、後半はCERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)に関しての解説であった。物理の事象を数式を使わず言葉だけでわかりやすく説明するのは難しく、言葉だけで理解するのは無理なのではないかと思った。

見学終了後、お土産コーナーへ。お土産は意外にも充実している。しかも、けっこう安いと思う。素粒子のぬいぐるみがかわいかった。CERNトランプ(3フラン)と、CERNの研究を子供向けに説明したコミック(6フラン)を購入。Tシャツなど洋服類が充実していた。

その後道路を挟んで正面にある木でできたドームに行ってみた。中にはロレックス提供の展示がある。ちょうど映像を上映する時に入れたので見たが、最後ROLEXと大きく出るのでみな苦笑していた。

再びバス、トラムを乗り継ぎコルナヴァン駅まで戻る。Rough Guideに載っていたエチオピア料理店Zara 2001で昼食。店員が「食事?」と聞いてきたが聞き取れず、怪しい人が近づいてきたのかと思って最大限に警戒してしまい、失礼なことをしてしまった。本日のメニューが安かったので何かよく分からないがそれにした。あとミントレモネード。出てきたものは、金属製のお盆に4枚クレープを敷き詰めたものと何かの肉のピリ辛シチュー。レモネードは、ブルーハワイを薄めたようなどぎつい緑色の飲物だった。定食はどうも手で食べるらしいが、どうしたらいいのか全く分からず、店員ともフランス語でコミュニケーションが取れないので近くにいたカップルの真似をして食べた。味はよかったが量が多すぎて完食できず。途中、親戚らしき子供がやってきた。親族皆でトランプをしていたようだ。子供らはドイツ語をネイティブのように喋っていた。一族でスイスに分かれて住んでいるのかもしれない。

昼食後、トラムに乗って国連へ。ニュースで見たような名前を冠した建物が多く建っている。国連の建物に入るときには飛行機に乗るときのような身体チェックがある。その後、パスポート番号を登録され、その場で写真を撮られて身分証のようなものを作り、身につけなければいけない。あとで気づいたら私の名字は間違って登録されていた。ガイドツアーは大盛況で行列だった。夏休みだからだろうか。ガイドツアーは英、西、仏のいずれかは予約無しでも開催されていたようだった。本当はスペイン語がよかったけど、時間が遅すぎたので英語にした。英語ツアーの人どうぞ、と言われて移動したら別の建物でしばらく待たされた。本屋兼お土産物屋をその間にのぞく。お土産はどれもこれもやたら高く、多分国連の運営資金になってるんじゃないかと思う。


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国連正面入り口(一般客はここからは入れない)


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唐突に現れるガンジー像

二十分ほど待っていたらツアー開始。ツアーの中にカタルーニャ人の家族が3家族ほどいて、気になって仕方がなかったので写真を撮りますよ、と話しかけて交流を試みる。最初カタルーニャ語で話しかけてみたが、外人が話すとは基本的に思っていないので英語で返された。写真を撮ったあと、カタルーニャ人ですか?とカタルーニャ語で聞いたら通じなかったのでスペイン語で聞いたらやっと分かってもらえて、そこからはカタルーニャ語で話すことができた。やはり、驚いていた。そしてまだ十歳くらいの男の子にまで「ありがとう!」と言われた。彼はすでに立派なカタラニスタだと思う。

二つのホールにカタルーニャ出身の作家の作品が使われていて、1つはJosep Maria Sert、もう1つはつい最近できたばかりのMiquel Barcelóの作品。Josep Maria Sertの作品は黒と金の日本の屏風のようであった。絵自体は人類の進歩を描いていて全然屏風とは異なっていたが。未来派っぽいと言うか、共産主義の壁画みたいというか、時代を感じるものだった。ただ色が屏風っぽいので、絵をよく見なければ日本の歴史あるホテル(椿山荘とか)のような重厚な感じとも言える。カタルーニャ人が「スペインではなく、カタルーニャの作家である」とどうも係の人に説明していたようだ。


From Genf
手を伸ばしている人が案内の係員。

Miquel Barceloの作品はとにかくお金がかかったということでスペインでもかなりニュースになっていた。
UN artwork by Miquel Barcelo is a costy sum
写真を見ると光が天井からほのかに透けているように見えるが、これは白い塗料を全体に散らしてあるらしい。遠くから撮った写真しか見たことがなかったのでモデルニスモの作家のような、ガウディのモザイクのような作品かと思っていたが、まずつららというか鍾乳洞のような形を作り、その上に塗料を塗ったらしい。思ったよりもずっと気に入った。見る角度によって色と形が変わるというのがよい。カタルーニャ人たちも感動していた。

From Genf
ほぼ真横から作品を見ることができる。

ホールの天井以外にも至る所に各国から贈られた美術品がある。その国の特徴を表すものか、国連の理念を表すものかのいずれかなのでプロパガンダ芸術みたいなのが多く、それはそれでおもしろいが絵として面白いと思うものがあまりなかった。

国連見学後はWIPO(世界知的所有権機関)を見学。いちおうインフォメーションセンターがあるのだがお土産と本を少し売っているのと、10台ほどパソコンがあるだけ。そこに行くだけでも身分証をあずけてカードを首からかけなければいけない。用もないのに、インフォ以外の場所に入るのは無理そう。パンフレット系もネットからダウンロードできそうだったのでほとんどもらわずに帰ってきた。

From Genf
WIPOの庭にあったチーターの彫刻。

From Genf
WIPO正面入り口(工事中だった)。

バスに乗って駅に戻り、夫と合流して帰宅。

実用情報
CERN見学ツアーの解説と予約
Visit CERN - Guided Tours

Zara 2001
Rue de Lausanne 25
1201 Genève, Switzerland
022 731 06 96

ジュネーブの交通
tpg

国連ヨーロッパ本部
予約フォームを見たら、オプションとして見学のあとカフェテリアで食事をすることもできるらしい。

2010年8月4日水曜日

Paradies Schweiz (Museum für Gestaltung)

すでに10日ほど前になるけど、Museum für Gestaltungで特別展を見てきた。スイス人は自己イメージをどのようにとらえ、どのように提示してきたのか?を19世紀から現在に至るポスターを通して展示する。展示室は小さかったが見応えがあった。取り上げられていたスイスの自己イメージは3つ。1つめはマッターホルンに代表される山。2つめはスイス国旗の赤字に白の十字。3つめはハイジのような田舎の風俗。

印象に残ったものをいくつか。ミナレット建設禁止住民投票の時のポスターで、建設禁止賛成派はスイスの国旗の上にミサイルのような形状のミナレットが立ち並び、ブルカをまとった女性が前面に描かれたポスターを制作した。かなりインパクトがある。スイス性がミナレットによって脅かされるイメージか。一方反対派はあえてスイスをアピールせず、「スイスの空は、全ての宗教を受け入れる広さがある」と空を広く取り、ポスターの下方に様々な宗教施設の屋根が並ぶデザインにした(なぜか、問題のミナレットはなかった)。

あとエイズ予防のためにコンドームの使用を呼びかけるポスター。ハイジのような素朴ないかにもスイス風衣装をまとった少女が親指にコンドームをはめて、「無しでするの?私無しでやれば」と言っている。リンク先の一番下の列、真ん中のポスター。他のバージョンは特にスイスのイメージは利用していないらしい。スイス=田舎者、というイメージを自虐的に利用しているという解説があった。

20世紀前半、第二次大戦前のポスターは山々の間を走る鉄道、高速道路の未来的イメージと山岳の清浄なるイメージを組み合わせたものがいくつかあった。最新の文明と、自然が同居する未来の楽園というイメージは今でもスイスのイメージとして有効なのではないか。スイスの有名山岳リゾートツェルマットからゴルナーグラートバーンに乗ったが、3000メートルを超える地点まで楽々と連れて行かれて安全なまま別世界を楽しむことができた。目の前に広がる雄大な山々は本物だけれど、そこに至るまでの道、あるいは終点のゴルナーグラート自体はしっかり手が入って骨抜きになっている自然だ。また、ティチーノのハイキングルートも途中何カ所も小さな流れを渡ったが、自然の景観を壊さないようにしつつ、コントロールされていた。すっかり手なずけられた美しい自然を安心して楽しめる、未来の国を実現している希有な場所なんだと思う。

山、スイス国旗、田舎はスイスの全地域共通のイメージであるらしいことを確認したが、スイスに関して最も不思議なのはいわゆる国民としての統合を何によって行った(行っている)のかということである。多くの国でそれは言葉であり、国語の統合に心を砕き中央が認める言語以外を滅ぼしていったのだろうけど、スイスでは公用語が4つもあり、言語による統合は全く行われていない。この展覧会で取り上げられたようなスイスイメージが寄与している部分もあるのだろうか。


美術館ではもう一つ別の展示をやっていてそれも見た。Charlotte Perriandという女性に関する展示で誰か全く知らなかったがコルビジェと仕事をしていた人らしい。二度来日している。1930年代に政治的な活動にコミットしていた頃の作品が高校の文化祭のクラス発表を思い出させるコラージュで、コラージュしたくなった。椅子、写真の展示、本人が語るビデオの上映もあり興味がある人にはたまらない展示ではないかと思う。

博物館自体もレトロな建物で、魅力がある。50年代に建てられた大学の校舎のよう。なぜかフロアマップがないのだが、それもまたよし。なかなかに快適そうなカフェも併設されている。

Museum für Gestaltung
Ausstellungsstr. 60
CH-8005 Zürich


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